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[deprived(仮)]制作のための参考資料 10

今回僕がやりたいことはたぶんきっとこういうことなんだと思う。彼女はこの序文を書いた10ヶ月後に亡くなった。

< 若い読者へのアドバイス…

(これは、ずっと自分自身に言いきかせているアドバイスでもある)

人の生き方はその人の心の傾注 (アテンション) がいかに形成され、また歪められてきたかの軌跡です。注意力 (アテンション) の形成は教育の、また文化そのもののまごうかたなきあらわれです。人はつねに成長します。注意力を増大させ高めるものは、人が異質なものごとに対して示す礼節です。新しい刺激を受けとめること、挑戦を受けることに一生懸命になってください。

検閲を警戒すること。しかし忘れないこと—社会においても個々人の生活においてももっとも強力で深層にひそむ検閲は、自己検閲です。

本をたくさん読んでください。本には何か大きなもの、歓喜を呼び起こすもの、あるいは自分を深めてくれるものが詰まっています。その期待を持続すること。二度読む価値のない本は、読む価値はありません (ちなみに、これは映画についても言えることです)。

言語のスラム街に沈み込まないよう気をつけること。

言葉が指し示す具体的な、生きられた現実を想像するよう努力してください。たとえば、「戦争」 というような言葉。

自分自身について、あるいは自分が欲すること、必要とすること、失望していることについて考えるのは、なるべくしないこと。自分についてはまったく、または、少なくとももてる時間のうち半分は、考えないこと。

動き回ってください。旅をすること。しばらくのあいだ、よその国に住むこと。けっして旅することをやめないこと。もしはるか遠くまで行くことができないなら、その場合は、自分自身を脱却できる場所により深く入り込んでいくこと。時間は消えていくものだとしても、場所はいつでもそこにあります。場所が時間の埋めあわせをしてくれます。たとえば、庭は、過去はもはや重荷ではないという感情を呼び覚ましてくれます。

この社会では商業が支配的な活動に、金儲けが支配的な基礎になっています。商業に対抗する、あるいは商業を意に介さない思想と実践的な行動のための場所を維持するようにしてください。みずから欲するなら、私たちひとりひとりは、小さなかたちではあれ、この社会の浅薄で心が欠如したものごとに対して拮抗する力になることができます。

暴力を嫌悪すること。国家の虚飾と自己愛を嫌悪すること。

少なくとも一日一回は、もし自分が、旅券を持たず、冷蔵庫と電話のある住居をもたないでこの地球上に生き、飛行機に一度も乗ったことのない、膨大で圧倒的な数の人々の一員だったら、と想像してみてください。

自国の政府のあらゆる主張にきわめて懐疑的であるべきです。ほかの諸国の政府に対しても、同じように懐疑的であること。

恐れないことは難しいことです。ならば、いまよりは恐れを軽減すること。 自分の感情を押し殺すためでないかぎりは、おおいに笑うのは良いことです。

他者に庇護されたり、見下されたりする、そういう関係を許してはなりません—女性の場合は、いまも今後も一生をつうじてそういうことがあり得ます。屈辱をはねのけること。卑劣な男は叱りつけてやりなさい。

傾注すること。注意を向ける、それがすべての核心です。眼前にあることをできるかぎり自分のなかに取り込むこと。そして、自分に課された何らかの義務のしんどさに負け、みずからの生を狭めてはなりません。 傾注は生命力です。それはあなたと他者とをつなぐものです。それはあなたを生き生きとさせます。いつまでも生き生きとしていてください。

良心の領界を守ってください ……。

2004年2月

スーザン・ソンタグ

『良心の領界』 スーザン ソンタグ著、木幡和枝訳(NTT出版)より
 
原文抜粋

Susan Sontag, Author
Vassar College, Poughkeepsie, NY
Despise violence. Despise national vanity and self-love. Protect the territory of conscience.

Try to image at least once a day that you are not an American. Go even further: try to imagine at least once a day that you belong to the vast, the overwhelming majority of people on this planet who don't have passports, don't live in dwellings equipped with both refrigerators and telephones, who have never even once flown in a plane.

Be extremely skeptical of all claims made by your government. Remember, it may not be the best thing for America or for the world for the president of the United States to be the president of the planet. Be just as skeptical of other governments, too.

It's hard not to be afraid. Be less afraid.

It's good to laugh a lot, as long as it doesn't mean you're trying to kill your feelings.

Don't allow yourself to be patronized, condescended to - which, if you are a woman, happens, and will continue to, happen, all the time.

Do stuff. Be clenched, curious. Not waiting for inspiration's shove or society's kiss on your forehead.... Pay attention. It's all about taking in as much of what's out there as you can, and not letting the excuses and the dreariness of some of the obligations you'll soon be incurring narrow your lives. Attention is vitality. It connects you with others. It makes you eager. Stay eager.

You'll notice that I haven't talked about love. Or about happiness. I've talked about becoming - or remaining - the person who can be happy, a lot of the time, without thinking that being happy is what it's all about. It's not. It's about becoming the largest, most inclusive, most responsive person you can be.
 

「最良の批評とは(まことに稀少なものだが)、内容への考察を形式への考察のなかに溶解せしめる種類の批評である」 或いは、「文学の任務のひとつは、問いを提出して、支配的なもろもろの信念に対抗する表明を構築することです。」 という言葉も強烈な印象を持って今も僕の中にある。

そういえば、稽古後のフィードバックのときに路上で、数日前にみんなに、僕は今回 「中身」 と 「器」 を両方とも一緒に変えたいのだよ。と語ったのだった。俳優の演技の内実と演技の方法、作品のメッセージと伝え方。否、そもそも社会において、演劇作品を上演する。そのことの意味と方法。公演を行うということそのものの在り方を、なんというか、変えたい。脱臼させたい。ということなのだけど、いやはや。難しいハードルを自分に課してしまったものです。
    
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スーザン・ソンタグ(Susan Sontag) | 1933年-2004年

アメリカの著名な作家、エッセイスト、小説家、知識人、映画製作者、運動家。人権問題についての活発な著述と発言で、その生涯を通じてオピニオンリーダーとして注目を浴びた。批評家としてベトナム戦争やイラク戦争に反対し、アメリカを代表するリベラル派の知識人として活躍。著書に、『私は生まれなおしている』、『反解釈』、『写真論』、『火山に恋して』、『良心の領界』 等。

  • 2014.03.25 (火) 12:43
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[deprived(仮)]制作のための参考資料 9

稽古、稽古の日々です。shelf volume 17 新作[deprived(仮)]も、気付けば初日まで残すところあと10日。参考資料、というか引用するテキストについて、一昨日アマンダからの提案もあってブレヒトも視野に入れることにしました。…正直今まできちんと向き合うの避けてたんだよなブレヒト。ベケットもそうなんだけど、ちょっといろいろと存在がデカ過ぎて。
 
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上の写真はたまたま残してあった1996年に制作されたアレクサンドル・ダリエ演出、企画・制作銀座セゾン劇場の 『セツァンの善人』 のパンフレット。札幌で見たおそらくは僕の人生で最初のブレヒト作品。もう20年近く前になるのか。ふう。
 
 
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ベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht) | 1898年-1956年

ドイツの劇作家、詩人、演出家。アウクスブルク出身。ミュンヘン大学時代より文学活動を始め、1922年に上演された 『夜うつ太鼓』 で一躍脚光を浴びる。代表作に 『三文オペラ』 『肝っ玉お母とその子供たち』 『ガリレイの生涯』 など。第二次大戦中はナチスの手を逃れて各国で亡命生活を送り、戦後は東ドイツに戻りベルリナーアンサンブルを設立、その死までの活動拠点とした。政治やマルクス主義との関わりから、役への感情移入を基礎とする従来の演劇を否定し、出来事を客観的・批判的に見ることを観客に促す ために、報告や叙述を行なったりコーラスや映像によって註釈をつけたりする 「叙事的演劇(an epic theatrical play)」 を提唱した。その方法として、見慣れたものに対して奇異の念を抱かせる 「異化効果(alienation)」 を始めとするさまざまな演劇理論を生み出し、戦後の演劇界において大きな影響力を持った。

  • 2014.03.24 (月) 14:32
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[deprived(仮)]制作のための参考資料 7,8

shelf volume 17 新作[deprived(仮)]の為の参考資料。いろいろな言葉を探して、この辺りのコトにも当たっています。

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強い言葉、柔らかい言葉。極限を想定して書かれた言葉。ギリシア悲劇に登場する王たちや、昭和天皇の言葉。 「deprived(奪われている)」 という今回の創作のキーになる言葉に連なって、イメージを増幅させたり集約したり、或いは俳優が発語したときにその俳優がその言葉に対して持つ手触りや感覚が顕になるような言葉。

メッセージやコンセプトではなく、用意には言語化の出来ない個人的な身体にまつわる記憶も含めた、リアルな諸感覚そのものを舞台に乗せよう。と、いろいろな言葉を探しています。と同時に、言葉を探すのと同時に、政治的な局面等で人が発語する際に現れる特殊な 「振る舞い」 についてもいろいろと考え、且つ稽古場で実践・検証をし続けています。

疲れますよもう。年々稽古を“見る”コトにおける体力の消尽が増してきてます。不経済極まりないやね。
  
  
  
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武田泰淳 |1912年(明治45年)-1976年(昭和51年)

日本の小説家。1934年(昭和9年)、竹内好らと中国文学研究会をつくる。1937年(昭和12年)に召集され、中国を転戦し1939年(昭和14年)除隊。1993年(昭和18年)評伝 「司馬遷」 を刊行する。上海で敗戦を迎え、帰国。敗戦体験をもとに 『審判』 『蝮(まむし)のすゑ』 等を発表。第一次世界大戦後、戦後派作家として活躍。1976年(昭和51年)10月5日死去。64歳。東京出身。東京帝大中退。旧姓は大島。幼名は覚(さとる)。兄は水産生物学者・東大教授の大島泰雄。妻は随筆家の武田百合子、娘は写真家の武田花。伯父に、僧侶・仏教学者・社会事業家の渡辺海旭。代表作に、『風媒花』 『ひかりごけ』 『富士』 『快楽』等。
 
 
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昭和天皇 | 1901年(明治34年)-1989年(昭和64年)

日本の第124代天皇(在位:1926年(大正15年)-1989年(昭和64年)。諱は裕仁(ひろひと)。幼少時の称号は迪宮(みちのみや)、お印は若竹(わかたけ)。歴代天皇の中で(神話上の天皇を除くと)在位期間が最も長く(約62年)、最も長寿(宝算87)であった。大日本帝国憲法の下では、「國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬」 する立憲君主制における天皇として、終戦の国策決定などに深く関与した。1947年(昭和22年)に施行された日本国憲法の下では 「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」 である天皇として 「国政に関する権能を有しない」 ものとされた。しかし占領期には、GHQ総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見などにより、独自の政治的影響力を保持した。主権回復後には、象徴天皇として皇室外交を行った。また、天皇としての公務の傍らヒドロ虫(ヒドロゾア)・変形菌(粘菌)などを、生物学研究者として研究した。

  • 2014.03.20 (木) 11:02
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[deprived(仮)]制作のための参考資料 6

世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、
「世間というのは、君じゃないか」
という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)
汝は、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ!などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、「冷汗、冷汗」と言って笑っただけでした。
けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。そうして、世間というものは、個人ではなかろうかと思いはじめてから、自分は、いままでよりは多少、自分の意志で動く事が出来るようになりました。

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太宰治 | 1909年(明治42年)-1948年(昭和23年)

日本の小説家。本名、津島修治(つしましゅうじ)。1936年(昭和11年)に最初の作品集 『晩年』 を刊行し、1948年(昭和23年)に山崎富栄と共に玉川上水で入水自殺を完遂。主な作品に、『走れメロス』 『津軽』 『お伽草紙』 『斜陽』 『人間失格』。その作風から坂口安吾、織田作之助、石川淳らとともに新戯作派、無頼派と称された。

  • 2014.03.18 (火) 13:30
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[deprived(仮)]制作のための参考資料 5

僕も八十九歳になり、少し老人になったらしい。人間もいくらか老人になったらしい、人間としては少し老人になりすぎたらしい。いくらか賢くもなったかも知れないが、老人になったのも事実らしい。しかし本当の人間としてはいくらか賢くなったのも事実かも知れない。本当の事は分からない。しかし人間はいつ一番利口になるか、わからないが、少しは賢くなった気でもあるようだが、事実と一緒に利口になったと同時に少し頭もにぶくなったかも知れない。まだ少しは頭も利口になったかも知れない。然し少しは進歩したつもりかも知れない。ともかく僕達は少し利口になるつもりだが、もう少し利口になりたいとも思っている。皆が少しずつ進歩したいと思っている。人間は段々利口になり、進歩したいと思う。皆少しずつ、いゝ人間になりたい。いつまでも進歩したいと思っているが、あてにはならないが、進歩したいと思っている。僕達は益々利口になり、いろいろの点でこの上なく利口になり役にたつ人間になりたいと思っている。人間は益々利口になり、今後はあらゆる意味でますます賢くなり、生き方についても、万事賢くなりたいと思っている。ますます利口になり、万事賢くなりたく思っている。我々はますます利口になりたく思っている。益々かしこく。

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武者小路 実篤 | 1885年(明治18年)- 1976年(昭和51年)
日本の小説家・詩人・劇作家・画家。従三位。文化勲章受章。授与された称号には名誉都民等。日本芸術院会員。、1910年(明治43年)に友人・志賀直哉らと雑誌『白樺』を創刊。以後、60年余にわたって文学 活動を続ける。代表作は、小説 『おめでたき人』『友情』『愛と死』『真理先生』、戯曲 『その妹』『ある青年の夢』等。多くの人生論を著したこ とで知られ、一貫して人生の讃美、人間愛を語り続けた。

  

  • 2014.03.17 (月) 12:50
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