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劇評が掲載されました。中日新聞 2011年11月19日(土)

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安住恭子の舞台プリズム shelf「構成・イプセン」

人を縛る観念 端的に描く

 イプセン作品に取り組んでいるshelfが、「構成・イプセン」(矢野靖人構成・演出)を上演した。「幽霊」を中心に他の作品も織り交ぜた構成で、数年前にも上演しているが、今回は戯曲をより深く捉え直し、因習や道徳律との葛藤と悲劇を端的に見せた。
 「幽霊」は、夫を亡くして十年になるアルビング夫人と、長年海外で暮らしていた息子、召使いとその父親、そして彼らの後見者的立場を自任する牧師をめぐる物語。主には牧師と夫人の結婚をめぐる議論で、牧師が主張する結婚観がいかに彼女と周囲の人間に不幸をもたらしたかを明らかにして行く内容だ。夫人が「幽霊」と呼ぶところの、人を支配するその観念をクローズアップして、イプセンの中でも象徴的な作品とされる。
 そして物語の枝葉を切り落とし、議論の本質を構成した今回の舞台は、「人形の家」の挿入もあって、心と行動を縛る観念への妻の目覚めと反発をより分かりやすく示した。更に今回は、その「幽霊」を男女の俳優が演じた。常時彼らの周囲を徘徊し、ときには彼らのセリフを語るのだ。
 そのことによって観念の濃密さを視覚化しただけでなく、人間への批評性を強めたようだ。因習や道徳律に限らず、人は時代の空気や多数の意見に縛られている。イプセンが提起した問題は、今も続いているのだ。相変わらず出演者たちには内圧の高い演技が要求され、川渕優子と三橋麻子がせりふを深く響かせた。だが、出演者によってはそれが力みだけに終わったように思う。(六日、名古屋・七ツ寺共同スタジオ)

  • 2011.11.22 (火) 06:58
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  • archive::「構成・イプセン」 2011
  • Yasuhito YANO

コメント一覧

2011.11.22 (火) 08:06 編集・削除

確かに川渕さん他、女優さんたちは素晴らしかった。
比べると男優さんたちがちょいイマイチだったかな。たたずまいに品が欲しかったな。

矢野靖人 url 2011.11.22 (火) 08:14 編集・削除

萩さんへ

コメント有難うございます。ご指摘の点、難しい問題ですね。

品、とは安住さんは書かれていませんが、演出意図としては男性陣のキャストには(特に牧師の)“通俗性”を前面に押し出したかったというのがあります。原作を読むとお分かりになるのですが、このマンデルス牧師という人物、因習に凝り固まっている一方で相当、金銭に対して煩い(上演では孤児院に保険をかけるとかかけないとか、という重要なくだりがあるのですが、それは演出の都合上カットしました。)という側面があります。

あるいは、息子オスヴァルの“過剰な”生の充実感への欲求。そのことと、自我に目覚めた女性の一見クールに見える自意識の在り方というか、理性的な側面との対比。それが実は、人間存在の表裏を為していて、しかもその裏表はいつでも反転し得るということが描きたかった。

つまりここでは、品よりもいわば滑稽さを提示したかったという意図があります。そうするとそこに品、を求められても、両立はなかなか難しいですよね。

しかしそもそも、佇まいの品、とは何を指されているのでしょうか。僕にとっては、男優たちの佇まいには演技の通俗さと同時に佇まいの“美しさ”を苛烈に求めていました。そして、それは、(自画自賛は美しくない行為なのであまりしたくないのですが、それでも)ある程度実現できていたと自負しています。

こうなると、しかしやもすれば議論が成り立たなくなってきてしまうのですが、萩さんがいったい舞台芸術に何を求めていらっしゃるのか? それは果たして、shelfが表現しようとしているものと近しいもので在り得るのか。という、つまるところ、そもそも個人的嗜好が、もう少し丁寧にいえば美意識の在り方が異なるのではないか? という問題が否応なしに絡んできます。

例えは拙いですが、フレンチのレストランに入っておきながら、そこで日本料理を頼んで、求めたものが出て来なかった! なんて文句を言っても野暮ですよね。

安住さんはそこのところ、つまり個人的な嗜好の問題には立ち入らないよう丁寧に評を書かれています。

もちろん、観客はお代を払って、時間を割いて観劇にいらして下さっているわけですから、観たものに対して好き勝手に文句をいう権利はあります。

しかし、そのことと、求めている表現がそこにあったかなかったかの責任問題とは別な気がするのです。けっきょくは、舞台芸術は、特に現代演劇は中身の分からない買い物である、という問題に行きつきます。

個人的には、そこには日本に健全な批評や真っ当なジャーナリズムが不在である、という大きな問題と、新作至上主義の横行や、費用対効果の問題、あるいは西欧などとの文化的背景の違いから再演や、ロングラン公演が小劇場演劇ではなかなか難しい、という問題が横たわっていると思っています。

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