4/4(木)日経新聞夕刊に劇評が掲載されました。執筆者は馬場駿吉先生です。ご一読くださいませ。
小説などの名作、現代に照応
演劇|劇団 shelf 「edit」小劇場演劇では、今という現実の様相を、どんな独自の新しい価値観で表現しているのかをひたすら見届けたいと観客席に座してきた。そのような関心を裏切ることのない演劇集団として最近注目されるのが、「shelf」だ。
代表者で劇作家・演出家の矢野靖人(名古屋出身、東京在住)が当面目指すのは、古今東西の優れた劇作家や文筆家たちのテキストを現代の状況に照応させ、その時空を超えた先見性、普遍性を再発見することだろう。
今回の名古屋公演「edit」(構成・演出/矢野靖人、七ツ寺共同スタジオ、3月9日~11日)は編集を意味する英語。ル=グウィン「左ききの卒業生祝辞」、ソフォクレス「アンティゴネ」、イプセン「人形の家」、太宰治「かすかな声」。保坂和志「魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない」、伊丹万作「戦争責任者の問題」の6編から核心部分を抜き出し、連句のように響き合わされる。このうち「アンティゴネ」における、政治的・公的な言葉と私的な言葉との軋轢が特にクローズアップされる。それと共に男女差別、責任転嫁に加え、利便性と表裏をなす環境問題などがその他のテキストからも立ち上がり、川渕優子を中心とする俳優6人の声と身ぶりによる独白や対話によってそれらが共振させられる。
衣装は古代ギリシャ劇風で簡素。舞台空間には何も置かずホリゾントは黒一色でシンプルに徹し、そこに漂う俳優たちの緊張関係にはふと能楽に通じるものさえ感じられた。
最後は再び冒頭の「卒業生祝辞」に戻り「栄養物を与えてくれる闇の中で人間は人間の魂を育む」で結ぶ。闇のような現代を生きる私たちへの励ましの一言だ。
(演劇評論家 馬場駿吉)