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「トロイアの女」

アジア舞台芸術祭ショーケース参加作品のための稽古初日。shelf は 「トロイアの女」 を上演する。

といって15分で全編上演なぞ出来るわけもなく、終幕近くのヘカベ(と一部コロス)の台詞を抜粋して、俳優に台詞を割り、エッセンスを抽出して構成し直した小編、新作になる予定。(作品の一部分を上演、とかではなく15分の独立した作品にするつもり。)

エウリピデス 「トロイアの女」 は、2008年1月、七ツ寺共同スタジオ35周年記念企画のときに 「悲劇、断章 ― Fragment / Greek Tragedy」 として上演したことがある。この作品は今もshelfの代表作の一つだし、今回の 「東京舞台」 DVD収録映像にもこの作品のものを使用したくらいなのだけれど、

これは“直観”なのだけれど、この戯曲はしかし、今、2年前に制作したときよりもずっと時代に適している、というか、時代に必要とされている作品であるという気がしてならない。少なくとも2年前とはまったく“違う”作品になると思う。

この時代における私たちの圧倒的な“喪失”と、その喪失の原因が自然災害などでなく“人為”的なものであるという逃れ難い事実。あるいは、その恨みをぶつけようにも、これはエウリピデス本来のテキストからよりもこれを 「トロイアの女たち」 として書き改めたサルトルのその時代に対する実感に近いのかも知れないけれど、“神”は既に不在で、とうの昔に滅んでしまっているという事実――


 残忍な神々、
 おまえたちはいつでも私を憎んでいた、
 都という都のなかでトロイアだけを憎んでいたのだ。
 儀式どおりに
 祀り、犠牲を捧げたものを。
 むだだった。

 私たちが地獄の苦しみに会っているのに、
 そのように天上で笑っている。
 が、不滅の神々、おまえたちは間違いをしでかした、
 大地震ででも滅ぼされたのなら
 だれも私たちの話をしなかったろうに!
 私たちはギリシア全土と
 アジアの連合国を相手に十年戦った、
 そして卑劣な悪巧みにあって、死んでゆくのだ。
 私たちの名は二千年の後にも
 人々の口にのぼるだろう。
 私たちの名誉はやがて認められよう、
 おまえたちのばかげた不正も。
 だがどうしようもあるまい、
 とっくに死んでいようから、
 オリンポスの神々も
 私たちのように。


――私たちが失ったものとは何だったのか。今、ここに、私たちにとって、取り返しのつかない“喪失”があることだけは確かだ。しかしそれを後悔し悔い改めようにも、あるいは恨みをぶつけようにも、ぶつける対象すら、これも失われてしまっているという、この喪失感の正体はいったい何なのか。

不在の神とはいったい何者なのか。

今回の 「トロイアの女」 は決してエウリピデスの 「トロイアの女」 ではない。ヘカベがその死を嘆くのはアステュアナクスではなく、私たち自身にとっての、誰か(何か)だ。

というような話をした稽古一日目だった。

稽古後、COLLOLの田口アヤコと三軒茶屋で飲む。その場で今回の出演者の一人に決まる。急な誘いだったのに快く引き受けてくれた。本当に有り難い。これで出演者が全員確定した。使うテキストも、今日の読みでほぼ決まった。

アジア舞台芸術祭ショーケース参加作品「トロイアの女」、川渕優子と櫻井晋、岩井晶子そして田口アヤコ(COLLOL)という4名の俳優と制作します。付き合いは長いのに田口と一緒にやるのは、実は「再演 R.U.R.」以来、3年半ぶり二度目なので、田口との共同作業もとても楽しみ。

さあ、頑張るぞ。

  • 2009.11.14 (土) 02:59
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  • Yasuhito YANO

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