――イプセンがこの戯曲に書いたモチーフのひとつ、「静かさが聞こえる」とは、人間の生の時間からの決定的な疎外を表象しているように思えます。
そしてそれは、生きるということ(と死ぬということ)の本質に関わる。
意識するとせざるとに関わらず、人は過ぎていく時と常に対峙せざるを得ない。向き合うことを恐れ、見ないふりをしてみても時間は確実に過ぎ去っていく。と言ってまっすぐに向き合ってみてもそこには深い裂け目があるのみで、
その不安を解消するためにか人は限られた生に意味を見出そうとする。芸術家が後の世に作品を残そうとすることや、あるいはそもそも人が子を生み育てるということも、そんなことは言い古されたことかもしれないけれど、ひょっとして単にこの生の時間からの疎外に対する、それに起因する不安から逃れるためのただの方便に過ぎないのではないか。
彫刻家であるルーベックには子供がいない。その昔彼のモデルであった女性――イレーネにもいない。
実際に子供のいる夫婦だったらおそらく何とはなしに日常に紛れていただろうに、ルーベックとイレーネの二人は、芸術作品を作るということで子どもに代わるような貴いものを成したように思えた。しかしそんな二人だからこそ、すれ違い、お互いから目を逸らした隙にふと、恐ろしい日常の裂け目を直視してしまったのではないか。
僕はこの戯曲を通じてそういうことが、そのような生の本来的な不条理が剥き出しになるような作品を作りたいと思った。
きっと真っ白な、生と死を見つめる美しく儚い作品になると思います。
ご期待下さい。
演出/矢野靖人 |