shelf volume02「シム紙風船」



岸田國士「紙風船」の上演の合間に、挿入される物語。一応、パターンA〜Eの順で演じられるのが望ましいが、順序の変更・挿入箇所に関しては演出家にお任せする。古典演劇と現代演劇のコラボとなれば是、幸い。
(坪内志郎)


[原作] 岸田國士 「紙風船」
[戯曲] 岸田國士
  坪内志郎 (劇団 新エマニエル夫人)
   
[構成・演出] 矢野靖人
   
[出演] 関根好香
  岡田宗介


[音]

伊藤由紀子 (cokiyu web)

[照明] 鈴村淳
[装置・美術] 柏井勇魚 (lt-s
  斎田創 (突貫屋)
[衣装] 太田家世(自由創作師)
[写真] 伊藤雅章
[宣伝美術] 京 (kyo.designworks)
[制作] 日和庵
[製作] shelf
kamihusen01 (c)photo/Gasho Ito
[場所] ギャラリー・ルデコ 6
  東京都渋谷区渋谷3-16-3 ルデコビル 6F TEL:03‐5485‐5188

[日時] 2003.6.25(水)〜29(日)




■ 「岸田と私」

小・中・高・三流私大を通し、岸田と名のつく友人は皆無でした。
キシタもキノシタもキシワダもおりませんでした。ギシタも。
多分それ位に縁が無かった名前の人の作品を、今日こうしてリプロダクションするというのは、奇跡にも等しい確率だと思います。
そして、僥倖だと思います。光栄です。だってすごく偉い人なんですよね。
賞もある位ですからね。大変緊張しました。いや、そんなには。
散歩したり漫画を読んだり漫画を読んだりしている内に、この「紙風船」という岸田さんの書いた作品が少しずつ僕に浸透していきました。
大正時代に書かれたにしては普遍性があるのは、多分その頃の日本がダラダラしてたからだと思います。
戦前のある一定期間は「エログロナンセンス」の時代だったのだと、今は老人介護施設にいる僕の 祖母がボケる前に言ってました。多分、今の日本と同じく小劇場ブームだったのかも知れません。きっと、鬼軍曹とかが静か系の演劇をやっていた事でしょう。病弱な二等兵は逆に、汚物飛んでくる系の演劇だな、きっと。
いや、どうだろう。
「紙風船」を前にして、更に一週間ほど懊悩している内に、ギョダーイ!と産まれたのが、坪内こと僕の書いた「シム紙風船」です。
「シム」は「シム・シティ」とかの「シム」です。シミュレ−ションとかの。
何か、「試してみる」という事を念頭に置いて書いてみました。文字通り。
最近試してないなぁ、色々な事に。試してみようかな。シムってみようかな。
シムっとく?給料前だけど、ちょっとそこらでシムっとく?
僕も私もそうだなぁと思っている方はなるべくそうした方がいいと思います。
お金と時間の余裕を見て。岸田も多分そうしてたと思います。

坪内志郎




■ 演出ノートにかえて

岸田國士の「紙風船」と、それをモチーフにした坪内志郎の「シム紙風船」。一見するとどちらも同じような、瑣末なことで行き違う男女のとりとめもない会話を描いた小品である。
「行き違い」によってあらわになる、二人のあいだに存在する距離。どうしようもなく埋められない距離。
その距離の埋められなさを二人の作家は日常を丁寧になぞることで抽出する。 それはあいだにある距離を埋めようとして足掻く二人が作り出す「物語」についての注釈でもある。 距離といえば、この二人の作家にも大きな隔たりがある。 「紙風船」の発表が1925年、「シム紙風船」は今年(2003年)であるから、その差78年。誤解を恐れずにいえば、「紙風船」は、それほどの昔に描かれた戯曲でありながらも非常に分かり易い作品である。交わされる言葉は至極自然で全く色褪せない。しかしそれゆえにこそ簡単には理解し得ないものがそこに内包されて、在る。それは例えば、社会背景、時代の生理や息づかい、さらには身体的な規範や抑圧等であり、そうしたものは一見しただけでは戯曲の言葉の上には現れない。現れないがゆえに、それは埋められない距離として目の前に横たわる。

今回の企画の要諦は、この「距離」を出来るだけそのままに舞台に上げるということにある。

同世代の言葉と、異なる世代の言葉。これらを同一平面上に配置する。異なるコンテクストの言葉を擦り合わせたりせず、出来るだけそのままに並べ置く。結果、俳優の身体に立ち現れる、一つの身体を基準線としたときの二つの作品の言葉の差異。

これを掬い取ることによって、二者の距離を埋めるのではなく隔たりを隔たりのまま直截に把握することは出来ないだろうか?

それが可能ならば、異なる他者へのアプローチとして、現在(自己)に引き寄せるのでも過去(相手)におもねるのでもない、新たな地平が拓けるに違いない。それは同時に自己の言葉の他者性をも、より鮮明に浮かび上がらせる。

かくて私は、私と出会う。
自己に埋没するのではなく、世界と関係を取り結ぶために。

矢野靖人



□岸田國士 プロフィール
劇作家・演出家・批評家・小説家

1890年東京都四谷生まれ。劇作家、演出家、批評家、小説家。1919年フランスに渡り、ジャック・コポーのヴィユー・コロンビニ座を中心に演劇を学ぶ。戯曲の文学性を説く一方、戯曲が他の文学ジャンルとは異なることを強調し、後進の劇作家に大きな影響をあたえた。1928年「悲劇喜劇」創刊。1937年文学座創立。翻訳家、小説家としても知られ、翻訳ではルナールの『にんじん』、小説では『由利旗江』、『落葉日記』、『暖流』等。1954年、『どん底』演出中に脳動脈硬化症で倒れ、急逝。 1954年に創設された岸田國士演劇賞(後に岸田國士戯曲賞と改められる)は、新人劇作家の登竜門とされることから「演劇界の芥川賞」とも称されている。


(c)photo/Gasho Ito

□坪内志郎 プロフィール 劇作家・俳優

1974年東京都生まれ。20歳の時に蜷川幸雄演出作品に出演。同時期、劇団エマニエル夫人を立ち上げ・解散するがその後、劇団新エマニエル夫人として再び立ち上げ。現在に至る。役者としては、MODE、五反田団、F.A.networkなどに客演。特技は、日本舞踊・東北方言。本業は役者であるが外部への執筆の依頼は絶対に断らない。筆が速いことでも有名(自・他称)。2002年11月 あなざーわーくす代表わたなべなおこと共に演劇サロンの会を立ち上げ。同年日本インターネット演劇大賞最優秀新人公演賞受賞。




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