中日新聞 2009年10月10日(土)



安住恭子の舞台プリズム
圧巻だったせりふの応酬  shelf「私たち死んだものが目覚めたら」

緻密な演出で古典や近代劇に取り組んできた劇団shelf。今回上演したのは、イプセンの最後の戯曲「私たち死んだものが目覚めたら」(矢野靖人構成・演出)だ。生きることの意味を根源的に問うイプセンの戯曲に、果敢に挑戦した。
芸術家として成功を収めた彫刻家が、その代表作のモデルだった女性と再会する。若い妻との生活に飽いている彼は、その女性と共に再び創造の活力を取り戻したいと願うが…。そこで描かれるのは、理想を追求して仕事に没頭することが、常に愛や生活を犠牲にすること。しかも理想の果てにある高みに立ちたいという願いも、どこまでいってもかなえられないという現実だ。
イプセンは、その高みを目指す男と、欲望のままの生活を求める妻、そして愛と芸術の象徴としてのモデルという三人の関係を通して、そうした裂け目を描くのだ。しかも男は、山に登ることもなく、営々と地上を旅し続けている―。
今回圧倒的だったのは、高みへと飛び立つ力を疎外し地上に縛り付ける強力な磁場を舞台上に作り出したことだ。それは、男の分裂や矛盾を含めて繊細に演じた阿部一徳と、その彼の夢の幻のようなモデルを象徴的に演じた川渕優子の力だろう。二人のせりふの応酬は、客席を金縛りにするほどの迫力があった。けれども他のシーンが弱く、戯曲に含まれていたさまざまなイメージをもうひとつ力強く立ち上げるには至らなかったようだ。
(2日、名古屋・七ツ寺共同スタジオ)

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