中日新聞夕刊 2008年10月18日(土)



安住恭子の舞台プリズム
shelf 「Little Eyolf −ちいさなエイヨルフ」 戯曲の本質に迫る


古典や近代の戯曲を新たに読み直す作業を続けている若手演出家の矢野靖人が、再びイプセンに挑んだ。劇団shelfで上演した「Little Eyolf −ちいさなエイヨルフ」。

本来の半分余りに構成しての上演だったが、その劇的世界を余すところなく伝えただけでなく、イプセンが近代を超えることを示してみごとだった。

幼い息子を海で死なせてしまった夫婦と、夫の妹、彼女に恋する男らの物語。子供よりも何よりも夫への強すぎる愛をむき出しにする妻と、妹のひそやかな愛、その二人の間で揺れる夫の姿が描かれる。まず矢野は、この三人の関係に焦点を当てて構成し、心理をより強く凝縮した。

さらに今回目を引いたのは、「ちいさなエイヨルフ」は実は、夫そのものだという解釈だ。その呼称はせりふでは、息子や妹に向けられる。けれども終始松葉づえを持って座り込み、愛を迫る妻や妹に対して観念的な博愛を語る夫から浮かび上がるのは、彼らの愛に支えられ一人で歩くことのできない男の姿だ。しかも彼はそのことに気付かない。彼らを愛し支えていると思い込んでいる。その隠された弱さ・・・。

イプセンの戯曲に秘められたこの本質を、矢野は細心にせりふの奥を立ち上げる演出であぶりだした。その演出を身体化し、生々しく妻を演じた川渕優子が素晴らしい。
(11日、名古屋・七ツ寺共同スタジオ)




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