中日新聞夕刊 2008年2月2日(土)



安住恭子の舞台プリズム
shelf 「悲劇、断章」  大胆な省略、迫る重量感


七ツ寺共同スタジオ三十五周年記念企画の第一弾、shelfの「悲劇、断章」(矢野靖人構成・演出)は、ギリシャ劇を新鮮によみがえらせる試みだった。シンプルな構成で、エウリピデスの「トロイアの女」の内実をくっきりと立ち上げた。

まず目を引いたのは、戯曲を大胆に省略し骨格だけを抽出したことだ。コロスは登場させず、トロイアの王妃ヘカベ、王女で巫女のカサンドラ、皇太子妃のアンドロマケと、戦争の原因であるギリシャの美女ヘレネの女四人のエピソードをむき出しで並べたのだ。そのことで、愛する夫や息子、父親を殺され、自分たちは敵方の奴隷になる、戦争に敗れた側の女たちの悲劇がはっきりと浮かび上がり、その背後の欲望をめぐる喜劇性もうかがわせた。

それでいて舞台がやせ細ったわけではない。ギリシャ劇のずっしりとした重量感があった。それはひとえに、矢野の演出とそれに応えた役者たちの力だろう。激しい怒りと悲しみのせりふをまっすぐ語り、まっすぐ伝える。感情の波は、役者が表現するものではなく観客の内部に起こる。そのせりふ術。また冒頭で、ヘカベ役の火田詮子が白布の固まりをじっと見つめるだけでおびただしい亡きがらを想像させるような、内圧の高い動き。それらによって、二千数百年前の悲劇が、今も繰り返される戦争やさまざまな欲望のドラマへと広がった。ナチュラルでいて象徴的。魅力的だ。 (1月24日、名古屋・大須・七ツ寺共同スタジオ)

shelf 東京の演出家矢野靖人を中心にしたプロデュース集団。今回は名古屋と東京の俳優が共演した。


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