それにしても今回は、今回も本当に良い座組みに恵まれました。
正直な話、ちょっと不安もあったのです。今回は、普段 shelfに客演頂いている山の手事情社の川村岳さんや、Ort-d.dの三橋麻子さん・凪景介くん、或いは第七劇場の女優さんたちのように、普段から「身体性」について意識的で、且つ、そのための専門的な「訓練」を続けている俳優たちとは少し出自の違う、現代口語演劇に近い舞台を中心に活躍してきた俳優ばかりを客演に揃えたんですね。
勿論そこには今回の岸田戯曲に対する戦略と、目論見と、そして何より個々の俳優に対する信頼とがあったのですが、
果たしてここ数年 shelfが特化してきた身体の文法、言葉の取り扱い方に関する方法論に、彼らは無理なく馴染めるだろうか? お互いの持ち味を相殺することにならなければ好いのだけれど、、、と心配していたのです。
それが蓋を開けてみれば実は、実は。これが思いのほかに相性がよくて、勿論、最初はみんな相当文脈の摺り合わせに苦労していたみたいですが、また身体の取り扱いについても、そうはいっても多くがけっきょく時間をかけて専門的なトレーニングを積んでいる身体ではないので微妙に質感の違いはあるといえばあるのですが、それでもここ数日、求めていた空間が徐々に手のうちに入ってきている感触があります。
shelfの方法論(矢野の演出方法)は、身体の取り扱いを感情や心理といったん分断して独自の文脈で構成しなおし、戯曲の意識の流れに沿うかたちで、時間軸にパラレルに配置する。というものなのですが、(こう書くとカッコイイですがその実情はかなり、直感に頼った構成方法です、笑)ただ、もともとがこれは、青年団・平田オリザの提唱する「現代口語演劇」の方法論の核にあるものから、矢野が多分に影響を受けた結果なんですね。
「現代口語演劇」の方法論については、ご本人の書籍は勿論、先日青年団日仏合同公演「別れの唄」について、サンプル松井周さんが寄せられていた下記の評論が、独自の展開を織り交ぜつつ展開されていて秀逸、且つ刺激的でした。
一、台詞という行為も、人間の様々な動作の一つとして捉えていくこと
二、すべての台詞を、他者との関係、環境との関係で捉えていくこと
(「演技と演出」平田オリザ 講談社現代新書) この二つは平田オリザの提唱する「現代口語演劇」の方法論の核にあるものであり、これらは個人の、俳優の「主体性」を疑うことを意味した。
「主体性」を疑うということは、環境や人間関係に私たちがどれほど左右されているかを感じることであり、それによって揺らぐ「主体性」をも演技に取り込もうという方法である。『別れの唄』が「現代口語演劇」的なのは何も自然に台詞を喋っているとかそういうことではなく、この点によるものが大きいだろう。主体性が揺らぐことを楽しむように舞台に存在することが演技の「質」を高めていた。
(中略)
「主体性」が揺らぐということは、自分の存在する環境や時間に束縛されるということでもあるが、それらを丸ごと把握するということでもあるので、自由とも言える。『別れの唄』の俳優たちはその自由を得ていたように思う。と言ってもこの芝居は即興ではないので、その自由を得るためのプロセスは、一度把握して慣れきった全ての感覚を潜在下に置き、本番の舞台ではその記憶(脊髄反射的なものも含む)を呼び覚ますように演技をする・生き直すということである。
wonderland特別寄稿「揺らぐ「主体性」を取り込み楽しむ 演技の「質」を高めた舞台」から引用
http://www.wonderlands.jp/index.php?itemid=674&catid=3&subcatid=24
ただ、僕の場合はこの「揺らぐ主体」に相当する部分が、日常の身体に限りなく近似させていく現代口語演劇とは少しチャンネルの異なる、パントマイムや舞踏のような特異な身体・空間の獲得を志向しているので、最終的に舞台上にたち現れる空間は、だいぶ質感の異なるものになりますが、
何れにしてもチャンネルを合わせることさえ出来れば、と多少、ワークのための時間をかけることが出来れば、この方法は多くの俳優に通じる方法なのだという自信になって来ています。
今回の座組みのメンバーのおかげです。折角なので紹介を。

百花亜希さん
初めてお会いした時の印象は、とても「キレイな女性」でした。それが最近の稽古場では、美しいというより「男前な」と形容した方がいい様相を呈して来ています(笑)。
今回、ト書きを中心に複数のキャストの台詞を受け持って貰っています。難しい役どころを、とても楽しんで参加してくれています。

甲斐博和くん(徒花*)
本当に、自由な俳優です。緊張すると右手と右足が一緒に出てしまうことがあったり、と身体は若干不自由ですが、しかし彼ほど言葉を、それがたとえ他人の書いた台詞であっても自分のものにすることが上手い俳優はなかなかいないと思います。声がいいからなのかな。
徒花*という劇団を主宰し、作・演出も手がけるばかりか、第28回ぴあフィルムフェスティバルで「審査員特別賞」を受賞した映像作家でもある、非常に多才な俳優です。
*授賞式の様子が写真つきで掲載されています。審査員が「号泣しました。」ってどんな作品なんだろう・・・観たい。
http://www.pia.co.jp/pff/festival/28th/report.html

西山竜一くん(無機王)
つい先日、NEVER LOSE公演「廃校/366.0」でshelfの川渕優子が共演させていただいたばかり。思えば非常に付き合いの長い彼なのですが、実は俳優と演出家として付き合うのは今回が初めて。今回の客演陣のなかでは、shelfの作品を観客席から観たことのある唯一の俳優です。(先日の麻布die pratzeのshelfワークインプログレスですが、)
そういえば、川渕以外は、全員shelf初出演だ。スゴイな。

円谷久美子さん
女優を探しているのだけど、と無理なお願いをしてCOLLOLの田口アヤコ氏にご紹介いただきました。非常にタフで、繊細かと思いきや、実はかなりとぼけたところもあって。でもまんなかに硬い、芯があって。非常に魅力的な女性です。
COLLOL「性能のよい―シェイクスピア作『オセロー』より―」 、東京デスロック「再生」 等に出演していて、それをどちらも矢野が目撃していたことがきっかけに、今回の客演をお願いしました。
shelfはいつも、登場人物を、いくつかの類型に分けて配置・構成しなおすのですが、とても重要な役回りを担っていただいています。

高田愛子さん(ユニークポイント)
初めて会ったのは、演劇千年計画の第一回創作ワークショップでした。川渕以外で、今回の現場に入る前に一緒に作業をしたことのあった唯一の俳優です。彼女の感受性の暴力的な鋭さと、心の柔らかさに僕はとても、信頼をおいています。
以上5名の客演に加え shelf・川渕優子でお送りします、横濱・リーディング・コレクション#3「岸田國士を読む!」参加作品「顔」。いよいよ明日、初日を迎えます。
ご期待下さい。