記事一覧

ブレヒト的、ボルヘス的。

横浜美術館まで平松さんの作品を観に行く。ホール環境のせいもあってかちょっと台詞が聞き取りづらい箇所が途中あって、そこが残念だったけど、それでもとても刺激的な作品だった。


ファイル 320-1.jpg

ミズノオト・シアターカンパニーPLUS Produce

枝わかれの青い庭で
~引用:ボルヘス著 「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」 ~

2009年4月17日(金)~19日(日)
横浜美術館 レクチャーホール
http://www.notone.org


「平松日記」がとても面白い。一昨日まとめ読みしてたくさん、一方的に元気を貰った。今回の作品のためにあっちこっち出かけて行って自らの身体を被験材料に体当たりで取材している様子がスリリング。2年前のルーマニア・シビウ滞在記など。必読。

俳優だけでなく、短期記憶障害、若年性認知症、ADHD、発達障害、アスペルガー症候群といった方々と対話してきました。その共同作業を元に作品へと昇華中。
ドキュメンタリー的なアプローチです。

理化学研究所の言語生理学研究所をたずね、赤坂脳神経外科をたずね、実在する企業、実在する研究者や専門家と接点を持つ努力をしてきました。演劇作品として孤立しないように、さまざまな観点から、舞台と社会との繋がりを模索しています。

(同、日記から引用)

作品は、とにかく戯曲というか、構成が良かった。そして何より作品がきちんと開いている。劇場の中だけで、解釈可能な(消費される)「物語」として閉じていない。ブレヒト的で、しかもちゃんとボルヘス的。

冒頭の、演出家平松れい子として紹介されるところから、幕前でダラダラと、日常の身体で客席に向かって“普通に”喋っていたかと思ったら、 「あ、ちょっといいですか?」 と、突如、緞帳が上がるその隙間に駆け込んで。そのまま 「演劇」 が始まった瞬間はああ、やられた! と思った。

しかも、演出家平松れい子の派遣労働の現場を取材している(再現している)かのように見せて、じつはぜんぜん虚実入り乱れていて、

というのも、じっさい香料の研究所に取材に行ったり、日記にも書かれているけど、 「俳優だけでなく、短期記憶障害、若年性認知症、ADHD、発達障害、アスペルガー症候群といった方々と対話」 を繰り返して、緻密な取材をもとに構成された作品で、とてつもなく細部にリアリティの宿った戯曲でありながら、(しかも実際にアスペルガー症候群という「診断名」を持つ研究者や、詩人などの非・俳優が出演していることで、俳優=虚構を演じる存在である、という約束ごとからも解き放たれている。)

その一方で、モチーフとなっているのがボルヘスなだけあって、存在しない書籍への注釈(書物についての書物!)よろしく、存在しない国、というか地域? 「アクバル」 への、様々な見地からの(ばかばかしいまでに真面目な/不真面目な)言及が交錯し、どこまでが 「本当のこと」 で、どこからが 「嘘」 なのか。そもそもリアルってなんだ? という、作品“解釈”のレベルではなく、作品を“受容”するというプロセスそのものにおける、こちらの勝手な思い込みを含めた様々な日常の約束ごとや、自分の中でのものごとの境界線が揺らぐという、非常に知的で、刺激的な体験が出来ました。

面白かった。

ただ、冒頭にも書いたのだけど惜しむらくは、全般的に台詞がちょっと、聞きとりづらかったこと。意味が読み取れるような明確なコードなんてまるでないように進めているシーンもあって、それは間違いなく意図的な行為なんだと思うけど、それでも、せめてカクテルパーティ効果じゃないけど、同時に発話がなされていて全部は聞き取れなくても聞きとろうと思った声くらいは、言葉として聞こえると、もっとイメージが増幅されて、とても気持ちがよかったんじゃないかと思う。

滑舌というよりもっと、俳優としての身体の練度の問題だと思うのだけど、ちゃんと訓練された俳優だったらきっとどんなにささやくように喋っても呟いていても、聞かせられる筈。じっさい、下総さんや平松さんの声は聞こえていたのだし。

だけど、ここが悩ましいところなんだけど、この作品の魅力には、一方で訓練されていない、言ってしまえば素人が出演しているということで、担保されている部分というのが確かにあって。

そこでもまた、うーん。リアルって難しい。となってしまう。単純に、音響の良いスタジオで上演されたら、(もしくは各人の声をも全部マイクで拾ってミキシングをかければ?)それで済むような問題なのかもしれないけれども。

  • 2009.04.18 (土) 01:26
  • Permalink
  • review
  • Comments(0)
  • TrackBack(0)
  • Yasuhito YANO

トラックバック一覧

コメント一覧