記事一覧

[deprived(仮)]制作のための参考資料 11

昨夜遅く届いた知人の (恩師) の訃報。

俄かには信じ難い。…というか、信じたくない。ありえない。どうして人は死ぬのでしょうか。拙い、文学青年めいた言い方しか出来ませんが、僕にはそれが本当にまだ分からないのです。

ファイル 1136-1.jpg

分からないままに、しかし時は残酷に等しく平等に過ぎていく。そして、明日 4/3(木) には、自分の劇団の新作公演が初日を迎えてしまったりする。ちょっと残酷すぎます。無常とはそういうことなのでしょうか。アパートを出れば大家さんちの桜が満開でした。
 

「不思議な出会い Strange Meeting」 (1918)

どうやら私は戦いの場から脱けたらしい。
なにか深い、薄暗い隧道を通って、
がんこな岩を長い間かけて戦争が掘りぬいた、丸天井をもつ場所に。

そこには、しかし、眠りにつけない人たちがうめいていた。
自分の思いに沈んでいるのか、もう死んでいるのか、身動きしない人もいた。
さわってみると、なかのひとりが急に身をおこした。
私を見つめるまなざしには哀れみがこもっていた。
力なく両手をあげ、祝福するような身ぶり。
彼の微笑で私にはわかった、この陰気な部屋が。
死相を帯びたその微笑で、私は今地獄に立っていることを知った。

千の苦痛に、その面影はいろどられてはいたが、
地上で流された血のあとはもはやそこにはなかった。
砲声のとどろきはきこえず、かすかに送風管が悲しげな音をたてるだけだった。
「見知らぬ友よ」 と私は言った、「悲しむべきことはここには何もありませんね。」
「何も」 と相手はこたえた、「生きられなかった年月のことを除いては。
もはや希望をもたずにここにいるしかありません。あなたに希望があったように私にもありました。
この世で一番あらあらしい美を求めて私は狩に没頭しました。
おだやかなまなざしやきれいに編まれた娘の髪型にやどる美しさとはちがって、
時間にあわせたきまりきった動きをからかうような、
もし悲しむとすればここで、よりゆたかに悲しめるような、美しさ。
私がたのしめばそこでたくさんの人たちがともに笑い、
私が泣く時には、それでも何かそこにのこるはずだったから。
それは今は死ぬ他ありません。それは、語られなかった真実、
戦争の悲しみ、戦争のそだてた悲しみです。
今は、私たちが心ならずもたらした戦利品にごまかされて人びとは今までどおりのくらしをつづけるでしょう。
いや、満足せずに、いらだってまた殺しあいということになるでしょう。
戦争屋はまた、虎のようなすばやさですばやく動き、
世界の国々は臆面もなく進歩の大道からはずれて、軍の隊列を乱すものとてなく。
私には勇気があった。現在をこえる不思議な予感も。
私には知慧があった。自己をおさえる力も。
堅固な城壁なき見せかけのお城へと退却をつづける隊列から、ひとり離れるだけの力が。
だから、戦車の道が流血でとざされた時、私は、きれいな水のわきでる泉からくんで洗おうとしました。
血でよごされないほどの深みにまだかくれていた真実でもって、戦車を。
私の心のたけをそのためにつかい果たしたかった。
肉の傷口から流れだす血によってではなく、国に支払う税金としてでもなく。
兵士の額の見えない傷口から、血はいつも流れてやみません。
友よ、私は、あなたの殺した敵です。
この暗いなかでも、すぐに私にはあなたがわかりました。顔をしかめていたから。
きのう、私をさし殺した時も、おなじように顔をしかめていました。
私は、かわそうとしたが、両手は動かず、もうつめたかった。
さあ、ともに眠りにつきましょう。」

『たたかいの記憶 ―― 新・ちくま文学の森9』 鶴見俊輔 他、編(筑摩書房、1995年)

Strange Meeting

It seemed that out of the battle I escaped
Down some profound dull tunnel, long since scooped
Through granites which Titanic wars had groined.
Yet also there encumbered sleepers groaned,
Too fast in thought or death to be bestirred.

Then, as I probed them, one sprang up, and stared
With piteous recognition in fixed eyes,
Lifting distressful hands as if to bless.
And by his smile, I knew that sullen hall;
By his dead smile I knew we stood in Hell; 
With a thousand fears that vision's face was grained;
Yet no blood reached there from the upper ground,
And no guns thumped, or down the flues made moan.

"Strange, friend," I said, "Here is no cause to mourn."
"None," said the other, "Save the undone years,
The hopelessness. Whatever hope is yours,
Was my life also; I went hunting wild
After the wildest beauty in the world,
Which lies not calm in eyes, or braided hair,
But mocks the steady running of the hour,
And if it grieves, grieves richlier than here.

For by my glee might many men have laughed,
And of my weeping something has been left,
Which must die now. I mean the truth untold,
The pity of war, the pity war distilled.

Now men will go content with what we spoiled.
Or, discontent, boil bloody, and be spilled.
They will be swift with swiftness of the tigress,
None will break ranks, though nations trek from progress.

Courage was mine, and I had mystery;
Wisdom was mine, and I had mastery;
To miss the march of this retreating world
Into vain citadels that are not walled.

Then, when much blood had clogged their chariot-wheels
I would go up and wash them from sweet wells,
Even with truths that lie too deep for taint.
I would have poured my spirit without stint
But not through wounds; not on the cess of war.
Foreheads of men have bled where no wounds were.

I am the enemy you killed, my friend.
I knew you in this dark; for so you frowned
Yesterday through me as you jabbed and killed.
I parried; but my hands were loath and cold.
Let us sleep now ..."

 
ファイル 1136-2.jpg

ウィルフレッド・エドワード・ソールター・オーエン (Wilfred Edward Salter Owen) | 1893年 - 1918年

第一次世界大戦に従軍し25歳で戦死したイギリスの詩人。

  • 2014.04.02 (水) 11:53
  • Permalink
  • archive::[deprived(仮)]
  • Comments(0)
  • TrackBack(0)
  • Yasuhito YANO

トラックバック一覧

コメント一覧